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ブック&映画レビュー「戦火の馬」

今回も本の紹介。前回のアンジュールを絵本コーナーで探して(結局書庫管理だったのでそこにはなかったのですが)、出てくると正面に児童書コーナーがあり、絵本コーナーは土足禁止だったので靴を履き直し…ふと目線を上げたところで本当に偶然見つけました。

「戦火の馬」

出版社のサイトに紹介文がないので、今回は引用なしで。

 

これ、最初に知ったのは映画でした。なので先に映画の話をします。

監督はあの有名なスピルバーグ。たぶん予告か劇場サイトの紹介文で知りました。

実はスピルバーグ監督の映画って苦手なんです。戦争ものやアクションものの映画をたくさん作っていますが、グロいものはとことんグロいし、残虐シーンはとことん残虐だし、赤や緑の色を使った演出が多く、その色合いがどうにも受け付けられず、何本か見ていてストーリーとしては好きな映画もあるのですが、お気に入りにはなれないものばかりでした。もちろんその作り方がスピルバーグ映画の特徴であり、良さでもあるので否定しているわけではありません。

そこまでわかっているのにどうしてこの映画を見た(しかも劇場で)のかというと、配給がウォルト・ディズニーだったから。パイレーツ・オブ・カリビアンでもわかるように、ディズニー化された映画は血みどろになりそうな場面でもソフトな演出をするので、これなら見られるかなと思いました。まあ、賭けではありましたが。

 

結論。見て良かった。Blu-rayも発売されてすぐに買いました。当時はまだDVDとBlu-rayの境界時代でしたが、新しいもの好きの親が(当時の)大画面テレビとBlu-rayプレイヤーとオーディオセットをまとめて買っていたので、家でも高画質大画面で楽しみました。

映画は主人公の少年アルバートと、同じく主人公の馬ジョーイの出会いから始まります。サラブレッドを農耕馬にするというむちゃくちゃな農場でしたが、信頼関係は抜群でした。

時代は第一次世界大戦が始まる頃。先に戦争に巻き込まれることになったのはジョーイでした。軍馬として売られちゃいまして。

ここからはしばらくジョーイと、ジョーイに関わる人間たちの話になります。ここらへんで、「あれ、この映画、主人公はもしかして馬?」と気付きました。当時は原作があることも知らなかったので。

心配だった戦場のシーンはやはりスピルバーグで、追いかけてくる銃弾とか終わらない大砲とか、恐怖付きの迫力で満載でした。でもやはりディズニーで、残虐シーンはなかったし、処刑の場面も間接的に表現されていました。助かった。

当時の高画質を意識したシーンとしては、冒頭の草原を駆け回るシーンも良いのですが、闇の中で有刺鉄線に絡まってしまったジョーイのシーン。霧のもやもやがとても美しいのです。霧の向こうに見える、馬の影。ちょうど塹壕地帯で対立しているエリアでしたが、どちらの軍もジョーイをなんとかしようとしたシーン。見た目も心も美しいシーンでした。

アマプラで配信もされていました。お暇なときにぜひ。

 

映画の話はここまでにして、本の話に戻ります。

偶然見つけた原作の日本語訳。映画だとよくわかっていなかった部分が補完できたり、原作だけだとさらっと終わってしまう部分が映画では事細かに描かれていたりと多少の差はありましたが、基本的には同じストーリーでした。

そもそも世界史の知識がないのが悪いのですが、映画だとどことどこがどこで戦っているのか今ひとつ理解していなかったのですが、アルバートとジョーイはイギリス生まれ。船でフランスに渡ってドイツと戦っていました。船で渡るシーンが映画になかったので、余計に理解していませんでしたが、これで解決しました。

第一次世界大戦の核となる兵器は一通り登場します。塹壕、機関銃、大砲、有刺鉄線、戦車。無力となった騎兵隊。これは映画も同じです。毒ガスは原作には言葉が出てきただけで、しっかり登場したのは映画でした。ちょっと意外。

映画はアルバートも主人公としていましたが、原作の主人公は完全にジョーイです。話自体が、ジョーイの一人称で進みます。なので、映画では想像するしかなかったジョーイの想いがすべて書かれています。

映画と原作、どちらもおすすめで両方見てもらいたいですが、どちらを先にするべきかは悩みどころです。とりあえず大きく「作品」として楽しみたかったら映画で、あとから原作を読んで補完かな。初めに「ジョーイ」を知りたかったら原作で、映画で雰囲気を楽しむ感じかな。まあツマ自身が原作の存在すら知らずに映画から入っているので、大きなことは言えません。

 

終盤のシーンですが、原作でも映画でもフランスに渡っていた馬たちはフランスで売られることになります。映画ではよくわからなかったのですが、原作では「食肉用」として扱われてしまうと知りました。だから馬を大切にしていた兵士たちが大反対していたんですね。人間の都合で苦労させて、疲れ果てて、ここまで生き残ってくれた馬たちを、肉にして終わらせるのかと。肉にしたところで、あまり良い肉でもないでしょう。競りの場で、映画では「1ペニーwww」とヤジを飛ばされていたのはそういうわけでした。

せめてジョーイだけでもとカンパされますが、集まったのは26ポンド。詳細は省きますが、最終的な売値は28ポンド。

この28ポンドというのがどのくらいの価値なのかわからなかったので調べてみたところ、おもしろいサイトがありました。

 

www.nationalarchives.gov.uk

 

イギリスのサイトで、1000年分の歴史情報が詰め込まれている…らしいです。詳細まで理解できていません。すみません。

このサイトのトップから、Help with your research > Reading old documents > Currency converter と進むと、1270年から2017年までの貨幣価値を換算できるページがあります。

第一次世界大戦が1914年から1917年なので、間をとって1915年の28ポンドがどのくらいだったかを調べてみます。

そうするとこんな感じで計算されて、

1915年の28ポンドは2017年の約1650ポンドに相当すると出てきます。ちゃんと馬1頭も描いてありますね。イギリスのこういうところが好きです。

ここからは適当に検索した結果ですが、2017年の1650ポンドは約25万円だそうです。馬として高いのか安いのかはよくわかりませんっていうかなんだか安すぎるような気はしますが、食肉として買い叩かれていたと思えばこんなもんなのでしょうか。

しかし上の画像の一番下、Wages: 84 days とあります。熟練した商人が84日で稼ぐ金額という意味で合っているでしょうか。約2.5ヵ月分の給料ですかね。それで馬1頭分となると、やはりそれなりに高い金額です。無理に日本円に直さず、当時の物価として考えた方が良さそうです。とはいえ、商人の月収というのがこの頃の平均月収と比べて高いのか低いのかよくわからないのが難点。さすがに今そこまでは調べませんが。

 

ちなみに戦争前後で貨幣価値が大幅に変わった可能性も考えて、1910年と1920年でも調べてみました。

1910年の28ポンド=2017年の2188ポンド=2017年の32万円

1920年の28ポンド=2017年の813ポンド=2017年の12万円

日本円のほうは参考程度としても、イギリスポンドの変動が大きいですね。何かあったんだと思いますが、第一次世界大戦後の歴史を知らないので、そこはそのうち。

1910年も1920年も、どちらも84日分の給料となっていました。1920年の生活、つらそうだな…。

どちらにしても、ジョーイは当時の商人の月収の2~3ヵ月分、あるいは現代の20~30万円で売られた、と考えて良さそうです。あの競りはかなり雑に格安に買い叩く目的だったようなので、そんな中で月収2~3ヵ月分であれば、わりと高値だったのではないかと思います。上の画像でも、1頭分の満額だし。実際、買い手たちも良い馬だと褒めていました。

 

盛大に話が逸れましたが、第一次世界大戦の馬の話だよというお話でした。原作も映画もおすすめです。

映画でもあったか覚えていないのですが、ジョーイがイギリス軍からドイツ軍の手に渡るとき、そのときのイギリス兵が「ドイツ人は馬を大切にしてくれるから…」と言って送り出すんです。実際のところはまあ大切ではあるものの超重労働を課すわけなんですけど。で、もちろんジョーイが最初に従軍するときもイギリス人は馬を世話するための兵がいるほどには大切にしていて、どちらにしても大事な軍事力かつ生き物で仲間として扱っていた(扱いたかった)んだなあなんてことを思いました。

原著も売っていたので、積ん読がなくなったら読んでみる予定です。