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ブックレビュー「やさしい猫」

こんにちは。ツマとオットとキャットのブログ、つもっとキャットです。

今回は「やさしい猫」を読んだ感想です。Kindleでセールになっていたのがきっかけだったと思います。決して「猫」のタイトルにつられたわけではありません…。

読み終わってから検索したら、NHKでドラマになっていたんですね。セールはそのためか。ちょうど全5話の放送が終わったところのようです。

 

 

シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。出会って、好きになって、この人とずっと一緒にいたいと願う。当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。大きな事件に見舞われた小さな家族を暖かく見守るように描く長編小説。

やさしい猫 -中島京子 著|単行本|中央公論新社

 

ここのところ何年も問題になっている、出入国在留管理庁、通称入管と在留外国人、難民問題がテーマです。よく知らずに気楽に読み始めたら、まったく気楽な話ではありませんでした。

主人公のマヤが小4のときから始まり、高2まで続きます。その間ほとんどずっとスリランカ人のクマさんが父親のようなポジションで一緒に暮らしていましたが、やっとこさマヤのお母さんと結婚し、手続きのために入管に向かう途中、オーバーステイで収容されてしまいます。

前半はクマさんとマヤ&ミユキさんが関係を構築していくストーリー。後半は、クマさんが収容されている間の様子、マヤ&ミユキさんの生活や、その後の裁判に焦点が当たります。

収容所まで救急車が向かったのに追い返されたり、収容中の人が亡くなったり、刑務所以下の生活を強要されていたり、結構なエピソードが実話に基づいているのかなと思います。

 

ストーリー自体に特別ひねったところはないので、入管と在日外国人について少し書いてみようと思います。

ビザが切れてオーバーステイになっている外国人は、それはもちろん不法滞在です。許可を得て入国して生活している以上、規則をおろそかにしてはいけません。でも、ルールを破ってしまったことを自己申告することが危険な制度ってあるでしょうか。

身近な例で考えてみます。あなたは図書館のカードを作って、本を借りました。貸し出し期限は2週間とします。借りるときに説明を受けています。しかし度重なる体調不良があり(ツマにはよくある…)、返却に行く日が15日目になってしまいました。あなたは受付で謝りながら本を返しました。

「ごめんなさい、事情があって1日遅れてしまいました」

「規則違反です。窃盗未遂で警察に通報します」

「え?!?!?!?!」

びびりますよ。たかが1日、されど1日。とはいえちゃんと返したし、謝った。小言を言われたり次回の貸し出しが禁止されるかも…とは思っていても、まさか通報されるなんて。

これが現在問題になっている入管の動き方です。

警察に連れて行かれたとして、一般人の予想では警察はこう言うでしょう。

「返したんでしょ?1日だけなんでしょ?逮捕なんかしないけど、君も気をつけなさいよ」

物語に出てきた入管や警察だとこうなります。

「返せば許されると思った?1日だからって舐めてない?罪は罪でしょ。調書取って起訴するからね」

1ミリたりとも過ちを許してくれません。この場合の留置所は無法地帯。本を返さなかった人にはどんな罵倒や暴力を与えても構わないことになっています。

そういう未来を知っていたとしたら、あなたはどうしますか?1日過ぎてしまった時点で、もう図書館には行きませんよね。何だったら、借りた本を捨ててしまうかもしれません。そうすると二度と図書館には行けないわけですが、捕まって怖い思いをするよりはましだと思ってしまうでしょう。

恐怖政治は何の役にも立たないことは、危機管理では当たり前の考え方ですね。インシデント報告が少なすぎる部署は、インシデントがないのではなく、報告できない環境だと考えられます。報告が上がってくる部署よりもさらに多くのインシデントが起きている可能性が高いです。間違ったときに対策を指示するわけでもなく頭ごなしに叱る上司、何の役にも立ちません。

この例はまだ単純ですが、実際には人間的な扱いをされないとか、精神的身体的ダメージを与え続けられるとか、そういった報道が後を絶ちません。刑務所のほうがましなようですね。制限付きですが法的に一応人権が認められていて、3食出てきます。(刑務所での暴力問題はここでは置いておき…)

 

さて、図書館の例に戻ります。真っ青になっているあなたに、警察は言いました。

「2週間で返せないなら、郵送で返却できたでしょ。なんでやらなかったの?」

「知りませんでした…」

「知らないで済むと思う?みんな自分で調べてるんだよ。あなた、なんで自分から行動を起こさなかったの?知っていて放置したんじゃないの?」

言っていることは間違いではありません。返せないな、どうしようと思ったときに、図書館のホームページでも見ていたら、郵送返却のことが書いてあると気付いたかもしれません。でもあなたはとても具合が悪かったし、そこまで頭が回りませんでした。

「具合が悪かったっていうのも嘘じゃないの?」

いますね、こういう嫌味を言ってくる人。

困ったから相談に行ったら捕まった、自己申告しに行ったら捕まった、そんな恐怖施設が他にありますか?警察に自首するのだって、逮捕されるには手続きがありますよ。

 

日本にいる外国人について、悪事のために滞在しているのなら、全力で捕まえるなり追い払うなりしていただきたいです。しかし少し前までまっとうに働いていたり、家庭を築いていたりした人たちまでが、十分な申し開きの機会もなく長期で拘束されるのには納得がいきません。

不法滞在なら帰国するしかないじゃんと思っていた頃が正直ありました。でも彼らは観光ビザで来て不当に居座っているわけでも、罪を犯して本国へ送還されるわけでもないんですよね。もちろん必要な手続きを怠ることは許されませんが…。

考えが世界に広がりすぎて思いを書ききれないのでこのくらいにしておきます。

これは読んでいて知ったのですが、外国では収容期間の上限があるんですね。まあ出国するつもりがなく、犯罪の可能性が低く、今はビザのための手続きを待っている状態、とかだったら収容する意味はないですもんね。

物語の中では、ハムスター先生という弁護士が大変力になってくれました。ミユキさんも、カードローンとはいえお金を用意できたし、なんだかんだで助けになってくれるおばあちゃんがいました。でも日本にも母国にも頼れる人がいなかったら、こんなことはできません。

最終的には8割くらいハッピーエンドになりますが、ハヤトの家族の問題はやっぱり解決しないし、ゴールのない話でした。他の外国人たちの今後が心残りです。

 

キャラクターとしてはおばあちゃんが一番好きでした。実はクマさんととっても仲良くなっていたとか、保険を解約して乗り込んできたところとか。現金を持って歩くのはやめようぜと思いましたが(笑)

ハムスター先生も、裁判ではかっこよかったですね。マヤが被告側から嫌な証言をさせられた後の、やっちゃえ感とか。上原さんがどこら辺を入管にとって嫌な弁護士だと思ったのかをもうちょっと掘り下げてほしかったです。

マヤは小4の頃は子供なりの不安、高校生になってからは思春期の悩みもあったりして、一緒に成長を見守っていた気分です。が!ハヤトにさあ、将来がどうのとかは地雷っていうのは高校生にもなったら察しようよ…。弁護士事務所の他の人たちからも、ハヤトは仮釈放だとか、難民とはとかいろいろ教えてもらってたじゃない。トラブルになってからそういえばそんなことを言っていたような…とか当事者意識がなさすぎです。まあハムスター先生のお父さんが密入国したエピソードで「すごい」しか出てこなかったあたり、そこら辺の感覚が弱い子なんでしょうね。エンタメとしては密入国エピソードはかっこいい冒険譚だと思えるかも。でもそうせざるを得なかった背景とか、ハムスター先生が話してくれた内容を丁寧には理解できていなかった様子。勉強が苦手なようですが、学力の問題ではない気がします。勉強に関してはいかにも貧困母子家庭という感想です。塾には行けないにしても、受験前の秋だったか冬だったかに買った問題集を気が向いたときだけやるような受験勉強はそりゃ失敗します。しかしこの家庭ってお金に余裕はないにしても貧困というほどではなさそうなんだよなあ。

ハヤトは根っから明るいというよりは、不安を打ち消すためのピエロをやっているような印象がありました。作中には何とも書かれていませんが。

それからミユキさんとクマさん。一度別れたときのことを裁判でしつこくつつかれていましたが、大人2人の関係なんだから別れたり復縁したりって普通にありますよね。毎日仲良しこよしなんてあるわけがありません。結婚までが長すぎるとか逆に実質は2ヶ月とか関係ない!付き合ってすぐゴールインみたいな結婚のほうが今どき珍しいわ!しかもマヤがいるんだし。ミユキさん、途中で余裕がなくなってしまったけれどずっとマヤを第一にしていましたよね。それなのにうるさいぞこの被告サイド!!と読みながら怒っていました(笑)ツマが証言台に立たされてこんな質問をされたら「は?だから何?」「それはあなたの感想ですよねw」なんて途中でキレてしまいそうで。絶対に証言させてはいけない人間である。。。

 

 

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