Audibleでさくっと聞いた本を紹介します。7時間かからないので実際に短めの話ではありますが、それを除いても勢いがあって一気に終わってしまいました。
巨大地震発生。地下に取り残された女性は、目が見えず、耳も聞こえない。光も音も届かない絶対的迷宮。生還不能まで6時間。想像の限界を超えるどんでん返し。救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。
「無理だと思ったらそこが限界だ」とハルオが何度も連呼しているのは、あの同級生でなくてもうざいと思いました(笑) ツマはひねくれているので「だったら一生がんばり続けて限界突破して死んでしまえ」とも思いました。「がんばれば何でもできるよ!」っていうきれい事は嫌いなんですよね。やりたい人だけ勝手にどうぞー。
悪態はここまでにしておいて、本の話を。
ドローンでの救助活動が始まってからは、なんだかゲームっぽいなと思ってしまいました。一難去ってまた一難、としつこいほどにクリアしなければいけないイベントが発生します。が、障害者の世界ってそうですよね。しつこいくらいが現実を表していると思います。
救助活動はともかく、地震についてはかなり楽観的に見えました。報道ではM7以上だったけれど余震は少ないし、主人公の行動範囲には怪我人もなく、みなさんスマホを見ながらずいぶんとのんびり過ごしているようで。そこはメインストーリーではないから放置したのかな。
救助のために一時停電にしたくらいで、完全に電気が止まることもなければ、ちょうど学校にいたためか休息のための食糧確保にピリピリすることもなく、あまり切羽詰まった様子がありませんでした。最先端のスマートシティだからっていう言い訳でやり過ごすのか。まあ別にいいけど。
そのスマートシティが盛大に被災した(らしい)のは突貫工事だったからとか断層のせいだとか少し話題に上がりましたが、そこは結論を出さないまま終わりました。後日談をちょっと見たかったです。
このように詰めが甘い部分が多々ありますが、一気に楽しく読むにはうってつけの小説です。ドローンってこんなこともできるんだなーと夢が膨らみます。
しかしハルオの上にドローンを落とした人物は捕まったんですかね?しっかり傷害事件になっていると思うのですが、これこそしっかり後日談を見たかったです。あのトイドローンも徴収して救助に使うのかと思ったけどそうじゃなかった。
あ、ここまでで中川さんのことを全然書いてないや。
ラストは途中からうっすら予想ができました。先輩と話していたみたいに、中川さんにはめちゃくちゃ鋭い感覚があるんじゃないかっていうのもちょっと思いましたが、ミドリが採光パネルから落ちたっていうのを聞いたあたりからは、もしやと思い始めました。見えるし聞こえるけど声が出ない人と、声を出すだけならできるけど見えないし聞こえない人の組み合わせというのは斬新かも。
ていうか、ダメ元でも何でも良いから話しかけながら誘導していたらかなり楽になっていたってことですよね。通じなくても声をかけ続けることに意味があるように、聞こえていないし顔も見えていなくても声をかけ続けてはいけなかったんだろうか。
ナレーターの声もあってか、ハルオを教官と呼んでくれる消防士(名前忘れた…)がかっこいいです。自分はハルオほどの腕前はないと言いつつも、ハルオがダウンしていたときはしっかり役目を果たしていました。それに内部に進入したときはやっぱりプロフェッショナルでした。
先輩は冒頭だと無愛想だったり人付き合いが悪いように思えましたが、まったくそんなことはなかったです。むしろ嫌そうに見えて一緒にがんばってくれたり、なんか機嫌悪いのかなと思っても一生懸命働いているだけだったりで良いやつでした。
上司の女性(名前すぐ忘れる…)がおにぎりを配って歩いてたのはちょっとキモかった。ごめん。職務にそういうお母さん風を吹かせる人はいらんわ。
無理って言わない主義のハルオはうざかったけれど、終盤で吹っ切れてからは清々しくなりました。誤解してたのはハルオだけだった件。ハルオが過去から脱出するのもこの本のテーマの一部ではありそうですが、でもグダグダウジウジと自分語りが続かなかったのがこの本の良いところだと思います。地震にしろ人物にしろ、とにかくさっぱりしています。
ちょっとハラハラしながら、勢いに任せて読み切れる貴重な小説でした。
あ、そういえば中川さんの救助活動が始まったところで、この映画を思い出しました。
252生存者あり。
この映画が好きな人ならアリアドネの声も好きそう。話のボリュームやテンポが結構似ています。